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 小林一茶(俳句鑑賞マラソン⑤)

 

 一茶三十九才の時、たまたま帰郷したおり、父親が傷寒(チフスの一種)にかかります。一か月ほどで父親は亡くなりますが、一茶はその間付きりで看病します。その発病から葬儀、初七日までの様子を「父の終焉日記」として私小説風に書き残しています。

 涼めよとゆるしの出たり門の月(終焉日記)

 足元へいつ来たりしよ蝸牛(〃)

 寝すがたの蠅追ふもけふかぎり哉(〃)

 夜々にかまけられたる蚤蚊かな(〃)

 父ありて明ぼの見たし青田原(〃)

 日記には、一茶が献身的に看病し、弟らは田植えで忙しいとかで寄り付きもしないと、自分だけを美化する表現がたくさん見られます。それも、多面的な一茶の表れではありますが、その作為には極めて打算的な面を感じます。結局、この看病の途中で、父親が、財産を半分一茶に譲るという遺書を残すことになります。そのいきさつを「父が遺書を残してくれた」と書いているのもあり、「遺書を父に書かせた」と書いている本もあります。しかしながら、それが、後の骨肉争う財産騒動の決め手にもなっていくのです。

 それはともかく、一茶にとって唯一の身内を失ったことは、言い知れぬ孤独や寂寥感に包まれることになりました。

 門松やひとりし聞くは夜の雨(享和日記)

 ひとりなは我が星ならん天の川(享和日記)

 手招きは人の父なり秋の暮(享和日記)

 初七日を終えて江戸に帰った後、一茶はそんな気分を噛みしめながら暮らしていました。

              

 小林一茶(俳句鑑賞マラソン⑥)

 

 一茶は江戸で少しずつ俳人として認められていきますが、貧しい根無し草の日々から抜け出すために、故郷に安住することを切に願うようになります。そこで猛然と財産獲得闘争が始まるのです。断られても、無視されても一茶は故郷の財産に執着します。都合六回江戸から帰り激しく交渉するのです。

 一茶の言い分は、「俺は小林家の長男で権利がある」「父親の証文もある」ということでした。一方継母と弟の言い分は、「兄さんは江戸へ向かうとき父親から一定の金銭を受け取り、(こんな田舎へ二度と戻るものか)

と啖呵を切って出て行ったのだから、もう小林家の人間ではない」、「もともとの田畑を自分たちが真面目に働いて倍に増やしたのを、半分取るとはおかしい」、「証文は、重病の父親に、無理やり書かせたものだ」等でした。

 地元の村人たちも、遊民の一茶でなく、汗水たらしてよく働く親子の味方でした。

 雪の日や古郷人もぶあしらひ(文化句帖)

 心からしなのゝ雪に降られけり(〃)

 古郷やよるも障るも茨の花(七番日記)

 しかしながら、一茶が江戸へ訴え出るということから、継母親子も仕方なく軟化します。

 証文が物をいふぞよとしの暮(文政句帖)

 継母親子の軟化を見透かして一茶は「父親が死んでからすぐに受け取れるはずの財産七年分を、現金三十両にして払え」と追加要求するのです。(それはあまりにも多いと、約十一両に減額して決着します)

 古郷は小意地の悪い時雨かな(八番日記)

人謗る会が立なり冬籠(文政句帖)

村人たちの冷たい視線の中、一茶は、強引に財産半分を獲得し、信濃へ戻って行くことになります。                  

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  さそり座の歌

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