エスプレシボ 239号

能をつかんと

        する人 竹内幸一

もうすぐ春の音楽祭です。今日は4月の終わりの日曜日ですので、出演を決めている方は、最後の練習に余念がないことと思います。しかし、どれだけ練習しても、やはりいつまでたっても、出演に対する重い気分は、程度の差こそあれ、どなたもお持ちのことでしょう。早く演奏が済んで、晴れ晴れと連休を迎えたいと言う気分の方も多いことでしょう。ご苦労様です。

さて今回は、「能をつかんとする人」という古語のタイトルですので、ちょっと分かりにくいですね。これはたまたま見かけた徒然草(兼好法師)の第150段の見出しです。現代語訳にすると「芸能、芸事を身につけようとする人」ということだそうです。今回頑張って出演した方、そして残念ながらいろんな事情で参加できなかった方へ、次回に向けて少し参考にしてもらえたらと思って、その内容を取り上げて見ました。

「芸能、芸事を身につけようとする人が、上手く出来ないうちは、なまじっか人に知られないでこっそり習って、それが上手くなったら人前に出るのがいいというように言う人がいるけれども、そういうことを言っている人は、一芸も身につけることが出来ない」

そうかもしれませんが、こういう気分はよく分かりますね。耳が痛い方も多いかな。出演をすすめると、「もう少し上手になってから」と、断る方が多いですから・・・・。

もう少し先まで引用してみましょう。少し長いですが読んでみてください。

「まったく未熟なうちから上手な人に交じって、先輩から多少馬鹿にされて笑われても、平気で押し通して、修行を中途半端にしないで、また、勝手気ままにしないで、しっかりと稽古を重ねていると、さほど天性の素質はなくても、天分があって芸に打ち込まない者よりは、しまいには世間から名人、上手と認められ、それなりに人徳も備わってきて、名声を得ることが出来るのだ。

どんな人でも初心のうちは恥をかくということは良くあるものだが、一世の権威となるためには、そういうことに気おじしないで、上手な人に交じりながら修行していかなければいけない。これはどの道でも変わらないことではないか」

結局「恥という上達の薬」を、飲もうとするかどうかでしょうか。ギターを仕事にしている私でも、たとえ10分でも演奏を頼まれると、毎日の緊張感が違います。だらっとしてしまいそうなときでも、ちょっと練習しとこうとなり、爪の手入れも普段より丁寧にするようになります。

同じように、春の音楽祭に出ようと決めた瞬間から、その方の成長が始まります。重圧のある分だけ、そのバランスをとるように練習に励むようになるのです。天秤の片方が重ければ重いほど、その釣り合いへのエネルギーが不思議に沸いてきます。極端に言えば、演奏結果なんてどうでも良いのです。演奏会の日までの、緊張感こそが、何にも変えられない、薬の効き目だと思います。

「恥という薬」の効き目は、参加した方ならきっと分かっていただけることでしょう。ただこの薬は、無理に飲ませることが出来ません。本人が飲みたいと希望したときだけ服用出来ます。

音楽万能成長薬「恥の素」は、サンシティー音楽院にて好評発売中です。来年の春の音楽祭用「大箱」と、EFC参加用の「小袋」の2種類があります。まだお試しでない方は、是非お求め下さい。効能保証書付です。お待ちしています。

第3回 よちよち音楽入門鑑賞講座 

 よちよちですから、ただ聴くだけですよ。むつかしいことは何もなし。
●時.5月30日(金曜日)
     昼の部 午後1時半から
     夜の部 午後7時から
●所.サンシティー音楽院 A教室

●今月の100インチDVD鑑賞曲

ブラームス:交響曲「第1番

(90分)カラヤン指揮・ベルリン フィルハーモニー管弦楽団 
●受講料 500円(資料とお飲み物付き)

昼夜とも、各10名程度先着順に予約受け付けます。

<行事予定>

■第144回 さわやかコンサート5月23日(金)鶴見病院6時40分
■第14回エチュード・ファミリー・クラブ例会 5月11日(日・7時)亀の井ホテル2階ロビー普段着の気楽な会ですので、どうぞお気軽にご参加ください。<予約受付中>

■童謡、唱歌を歌いませんか。楽譜は使いません。歌詞が読めればいいですよ。

ほのぼの歌声サークル

(月2回・会費月額千円)会員募集中   5月は14日と28日・水曜日午後2時からです。いつでも入会出来ます。

福岡コンサートツアー・参加者募集

  竹内竜次が福岡で始めて本格的なギターリサイタルを開きます。皆様に応援していただけたらと思って、25名乗りのマイクロバスをご用意しました。どうぞご声援をお願いします。7月19日午後3時出発予定です。

●別府〜福岡会場往復のマイクロバス参加予約受付中(先着25名限り) 料金 5000円(チケット代金+交通費含む)
  竹内竜次ギターリサイタル 
7月19日 夜7時開演 会場・あいれふホール(福岡市中央区舞鶴 097-751-7778)
  全席指定 一般3150円 学生2100円


リレー随筆94

なんで大分やねん?

     ギター科  宮原 誠

 

1998年8月、定年後3年契約の会社を「何があってもいや」と丸1年残して、ここ杵築に永住することを決めた時、ほとんどの友人、同僚が言ったのが「なんで大分やねん?」でした。

 思い起こせば、関西での生活が38年、たった一人で心細くスタートした暮らしが、時間の経過とともに友人・知人が出来、家族が増え、永い年月をかけて培って来た自分の歴史、楽しかったこと、悲しかったこと、嬉しくまた悔しくetcetcといった悲喜こもごものシガラミを全て断ち切って、全く知らない土地に行っての零からのスタート、それも60才を過ぎてからの新生活となると不安が一杯の再出発です。当然、常識的にはとてつもない勇気を必要とする行動のため、自然に「どうして今更そんな遠い所に行かなきゃならないの?」という疑問にぶちあたった結果が、異口同音「なんで大分やねん?」となったようです。でも、その反面では、「非常に羨ましい」ともいっていました。

「なんで大分・・・・・・」そう、特に大分県でなければならないという理由があった訳ではありません。

学生時代迄を九州で過ごしていた間も、その後の長い期間も、私の頭の中にあった大分県といえば、中学校の修学旅行で泊まった別府、高三の時に登った九住連山、荒城の月、そして青の洞門ぐらいで、非常に地味な県といった印象でしかなく、まさか自分が根を下ろす場所なんて考えてもいませんでした。

何年も前から、都会の生活に疲れを感じ、定年後の定住地をイロイロ探して訪ね、調べて来ましたが、今一つフィーリングが合わなく、ある年、スイスを旅して、すっかりチロリアンの風景に魅せられた家内が、「どこかに小さな家を建てようよ」と言った時「今更家を建てるよりも、年に1回海外旅行をして見聞を広めた方が良い」と言っていた舌の先が乾ききらない内に、テレビで放映された全国版田舎暮しを偶然見て、杵築の物件が目に留まったのが運のツキで、その時は「キツキ」が読めず、また大分県のどの辺りの街かも解からず、地図で字の読み方と場所を調べて、さっそく現地を視察、するとどうでしょう、すぐ近くに海(釣り天狗にとっては絶対条件)、周りにはタップリと木々があり、あちこちから聞こえて来る小鳥のさえずり、その上、温泉まであり、何と言っても空気の甘さが最高という条件にすっかり舞い上がってしまい、後先考える間もなく、次の日には契約をしてしまったというスピードで、思考力の乏しい単細胞から生まれたのが今の生活です。

ここに来て、何年も苦しんでいた喘息が、たった2ヶ月で嘘の様にすっかり出なくなり、匂いのない甘い空気が胸一杯吸い込め、美味な新鮮野菜や魚がお腹におさまり、心身共完全にリフレッシュされた今、やっと「なんで大分やねん」の答えがみつかった気がします。しかし、ここ4年間で海はかなり濁って来ました。また周囲の木々も少なくなり、毎夏楽しみにしている「フクロウ親子の散歩」がいつ途切れるか気になっていますし、冬の夜空に満天の星を仰いだ4年前の透き通った夜空が少なくなって来ました。

せめて、この地で生まれ育った人達は気にもかけないほどおいしい空気だけはいつ迄も保ってほしいと思っています。

何だか、私の履歴書になってしましましたが、今なら言えます。

「おいでませ大分へ!!

 

稲垣稔ギターリサイタル盛会終了しました

音楽院20周年の大型企画としてBコン中会議室にて開かれたギターリサイタルは、多くの方のご支援をいただき、ギターの魅力を余すところなく伝える素晴らしい演奏会となりました。

このたび稲垣稔先生より、お忙しい中、お礼状を頂きましたのでご紹介します。

先日の別府でのコンサートでは大変心温まるおもてなしをしていただきまして誠にありがとうございました。
 前回演奏させていただきましたのは、13年程前だったと思いますが、あの時は竜次君もまだ中学生で それが今では立派に家庭を持たれて時の流れというものを感じずにはいられませんが、コンサートに来られたお客様は以前と全く変わらずとても暖かな雰囲気の中、素晴らしい響きのホールで大変気持ち良く演奏させていただくことが出来ましたこと、改めて感謝いたしております。

 サンシティー音楽院も今年で創立20周年ということですが、これからもずっとずっと多くの方々から親しまれ、別府に素晴らしい音楽の輪が広がっていかれますことを心よりお祈りいたしております。そして またいつか皆様と再びお会い出来ますことを今から心待ちにいたしております。

 どうもありがとうございました。

稲垣 稔

 

井上幸治さんを悼む

 弔句

わが胸を 異国の蛍 ゆるゆると   竹

 

4月26日(土)夜11時ごろ、佐賀の関谷先生よりスペイン在住のギタリスト井上幸治さんの訃報が伝わりました。突然のことにただただ驚くばかりでした。

昨年の9月25日に亀の井ホテルでのコンサートを開きました。抗がん剤の影響で髪の毛が抜けていて少し前とは感じが違っていましたが、演奏も熟練の境地の熱演で、力強い声も元気そうでした。もう病気のことは心配ないのだろうという気持ちでした。頭を隠す帽子のことなどで、冗談を言って会場を沸かせたりもしていました。

打ち上げに参加し見送った皆さんも、再会を信じて、安心してお別れしたと思います。

まさに・・命がけの演奏だったんですね。

あれから半年ほどしか過ぎていないのに・・

いろいろ思い出します。

 資料を調べてみますと、最初のコンサートは、平成9年9月21日に芙蓉倶楽部で開いています。丁度翌年の3月にグループでスペイン旅行を計画していましたので、そのプレイベントということで、開かれました。演奏会のあと、スペインの魅力に取り付かれて、スペインに永住してしまった井上さんのお話を聞かせていただくという楽しみまで頂いたのでした。まだ見たことのないスペインのことを、私たちは、胸を膨らませて聞いたものです。

(翌年の3月、ギター仲間10数名は、その井上さんの住むスペインの空気を味わいました。濃い青空が印象的でした)

 その時、井上さんはスペインの食べ物こと、気候のこと、そして奥さんや子供さんのプライベートなことまで、話をしてくれました。今、その奥さんや子どもさんが、どれほど悲しんでいることでしょうか。

 2回目のコンサートは、亀の井ホテルでした。平成11年の4月21日でした。丁度、コユンババという曲を私がやっていて、そのことについて、繰り返しなどのやり方を聞かせて頂きました。

 その演奏会前、ちょっと疲れたから眠らせてと、下の教室のソファーに横になって、しばらく井上さんは休憩していました。その間、上の部屋で、関谷先生と私たち家族は、梨を食べていたのをなぜか思い出します。

 その日の打ち上げが終わって、「またきてくださいね」と声をかけたら、「来るなといわれても押しかけてきますよ」と笑っていました。その約束を1度だけ果たしてくれましたが・・・

 そして、昨年の9月25日です。この8年ほどの間に、3度演奏をお聴きし、ご一緒に食事をしたりしました。それら全てをお世話し、ギタリスト井上幸治を育て応援してきた、関谷先生の悲しみやさびしさは、いかばかりでしょうか・・・察して余りあるものがあります。

 異国の地でギタリストになった井上さん。病が重くなった一月ほど前、やはり、故国日本への帰国を望まれたそうです。しかしその準備もむなしく、腸閉塞とかの急な病状で果たされませんでした。

 別府の地にギターのいろいろな想い出を残してくれた、井上幸治さんのご冥福を、心よりお祈りします。(竹内幸一)

 




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